デジタル印刷機の導入が決定し、2014年にプロジェクトが本格始動しました。しかし、これまでのグラビア印刷とは異なる新しい技術を取り入れるにあたり、社内の業務フローを大きく見直す必要がありました。営業部は新規顧客の開拓に苦戦し、製造部は従来の生産方式との違いに戸惑いがありました。プロジェクトチームは、期待と課題が入り混じる中で手探りの状態でチャレンジを続けました。 第二部では、各担当者が当時の状況を振り返り、試行錯誤の過程を語っています。
N.S.(営業): まず、売り先がわからなかったのが苦戦でした。 小さい取引を集めて大ロットにするという取り組みは、大量ロットのものを受注生産で販売する今までの営業と全く真逆の流れになり、なのでどこに売ったらいいかわからなかったんです。 加えて相談相手も限られていた。どういうふうな売り方ができるかを相談したくてもデジタル印刷を販売できるメンバーが当時、数名だけだったんですよ。いわゆる若手の中から選抜されたメンバーでした。 考えて、どういう販売先にどう持っていけば売れるのかっていう企画案を持ち寄っていました。ほんと試行錯誤でしたね。
Y.S.(デザイン): このアイデアをどこに持っていったら売れると思いますか?とデザインのわれわれに相談が来るんですよね。なので一緒に考える。 「〇〇に持っていったらええんちゃうの」とか。最初に出てくる社名は結構大手が多いんですけど、びっくりするような大手にもアポイントがとれるんですよね。 「えっ、そこと商談するの!?」と。これは大きな収穫ですね。既存のグラビア印刷ならこの規模の会社に直接商談することもできなかった。
N.S.(営業): オンリーワンはセールストークになるということがわかりました。大手に面白いくらいアポイントが取れました。製品に独自性があって変わっているのでとにかく話をききたいと。 ただ、なかなか売れなかったですね。話を聴いてもらえるだけのケースが多かった(笑)。
社長木戸: 最初のビッグ商談は大手飲料メーカーでしたね。アポイントが取れて、東京の本社で商談して。 先方もえらいさんが出てきて、興味を持ってもらって「(この企画は)ほかの飲料メーカーに持って行っていませんか?」と言われ、していないというと、 独占契約を検討したいので時間をくださいとも相談されました。実際に商材化はできなかったですが、「通用する」と実感したエピソードでした。 他にも、携帯電話キャリア本社やプロ野球球団など、今までなら営業をかけようとも思ったことがない会社にアプローチしてもアポイントがとれる。 競合がいない商品を作れば超大手相手にも戦える。これは大きな経験になりました。
T.Y.(製造): ただ想定外のクレームも多数ありました(苦笑)。それもグラビア印刷では考えられないようなレベルの内容で。印刷した面に貼ったテープをめくったら印刷がはがれるとか。 使うフィルム素材とインクの相性が確立されてなかったんです。僕らも過去に例がないので手探りでした。失敗自体を新たな発見と思って取り組みました。
社長木戸:
機械メーカー自体も事例がないので一緒に考えていました。最初はイスラエルからエンジニアが工場に来て張り付いてくれました。
彼らも、最初に出荷した5台が立ち上がらないと後が続かないと必死でサポートしてくれました。
私の頭の中ではこの手のビジネスは先行者利益が大きいのでどこよりも先にやることが大切、よそがやる前にうちが事例を作る必要がある、と考えていました。
本来は、製造が安定してから営業をかけるんですが、私にも焦りもあって、皆さんには当時無理をさせたなと思っています(笑)。
社長木戸: 引き合いはあったんですが、開始半年で50万円くらいしか売れなかったんですよね。壊滅的な数字でした。興味と売れるは違う。 実際にはそんなに甘くないな、というのは現実として突き付けられた感じでした。
N.S.(営業): 製品が安定しないのが大きな原因だったんですよ。最初の試作品は、ラミネートの強度が出ない、想定以上のトラブルが起こる。顧客から聞かれても対処がわからないんですよね。 で、逆にこっちも営業に行くのが怖くなってきて、だんだん営業が億劫になってきていました。
取締役井上: デジタル印刷そのものが、まだ世の中に浸透していなかった。市場ができていなかったんですよね。
社長木戸: 社内に報告しても、この数字を聞いてネガティブな意見が出始めるんですよね。当たり前ですけどみんな不安になる。なので、商品の発想を変えようと。 小ロットの商品を集めて大きな規模にして印刷を動かすネット印刷通販方式から、発想を逆転して「そもそも小ロットで受注・製造をしても採算がとれるサービス」を作ったらどうかという発想に行きつきました。 グラビア印刷では常識的にはやらない発想なんですが、デジタルなら、できるのではないかと。その可能性を模索したら、いけそうだということで、商品の切り口を変えてもう一回アプローチしようと。
N.S.(営業):
社長の言う「小ロットデジタル」というサービスの確立と、あと二機目として入ってきた広幅印刷機の存在も大きいです。
商材の幅が増えたこと、インクが安定し始めたこと、やれることが狭幅より増え、提案に幅ができました。
それに加えて、「小ロットデジタル」のラインアップに手で開封しやすい商品ができたことですね。この商品がサプリメント業界に爆発的に広がったことが大きな転機になりました。
取締役井上: もともと手で切りやすいパッケージは、グラビア印刷にはあったんです。それをデジタルに流用出来ないかということでチャレンジしてみたら、意外と簡単にできたんです。
N.S.(営業): 弊社の手で切れるパッケージは、設計がよくできていて、もともと評判は良かったんです。 小ロット商品の需要が高そうだと、サプリメントの会社へ営業に行ったときに、高齢者や女性がサプリメントパッケージを開けることに苦労しているという話を聴いたんですね。 ペットボトルのフタやボックスティッシュを結束しているラップシュリンクフィルムすら開けることに苦戦している。それくらい手先が弱っている。 彼らがストレスなく開けられるようなパッケージを小ロットで製造できたら絶対に売れるよ、とアドバイスをもらったんですね。 私たちも、ここにマーケットがあることは分かっていなくて、お客様に持って行って気づかされたんですね。デジタルでこれがやれるか、プロジェクトのメンバーで試作を重ねることになりました。
取締役西出: 私共の強みは代理店を間に挟まず取引をしていることなんですね。業界でも珍しいくらい代理店ゼロにこだわっていて。 間に(代理店が)入らないから、こういうニーズをつかむことができる。あとはKIDO PACKAGINGの理念にもある「自主創造」の精神が強いんだと思いますね。 ニーズを営業が持ってきたら、プロジェクトの全員で「どうやったらできるか」という目線で考える。実際にこの精神があったから、 高齢者や女性の力でも切りやすい(開封しやすい)パッケージをデジタル印刷により小ロット製造できる、という新商品が誕生したんだと思います。
N.S.(営業): とにかくうれしかったのがパッケージのうわさを聞きつけて問い合わせをいただいたことです。 市場に出回っているこのパッケージを見たメーカーさんが、「これはどこが作っているのか、KIDO PACKAGINGか、じゃあ問い合わせてみよう」と、パッケージが独り歩きして、 商品が営業してくれたような、そんな売れ方をしました。
A.Y.(生産管理): デジタル印刷、小ロット印刷を進める上で、難しかったのは、原価計算と印刷賃の設定が厳しかったですね。原価構造が違うんですね。 原材料から計算する印刷とは異なり、オフィスプリンターのようなサブスク的な課金構造で、そこをどう反映させるかとか。 あとデジタル印刷は印刷スピードが遅くて、その印刷加工賃(単価)をいくらに設定するのかとか、この計算が大変でしたね。 デジタル印刷1色と5色でどう値付けを変えるのかとか、朝から晩まで、この計算する仕組みの構築をずっと考えていました。
Y.S.(デザイン):
デジタル印刷で特に苦労したのが、特色が使えないことですね。デジタル印刷を導入してすぐに、特色が使えないことが問題になりました。
グラビア印刷なら、お客様の希望に合わせて特色インクを調合して再現できるんですが、デジタル印刷は基本的にCMYKの4色で表現するため、完全に同じ色を作るのが難しかったですね。
こういった壁を一つずつ乗り越えて、新たなチャレンジが軌道に乗り始めていきました。
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